「袋詰めお母さん」w/ カナリア

「何で子供は親を選べないんだ」 

そんな声が世の中に満ちてきたのは20XX年のことだ。

その声はどんどん強くなっていき、政府も無視できないほどのものとなった。

思い悩んだ末に政府が打ち出したのは、ある一定の年齢になれば両親を自由に選ぶことができるという施策だった。 

そして政府は、「親の袋詰め」という商品を生みだした。

これは母親や父親が真空パックされているという代物で、子供は理想の親を自分で選んで本当の親にすることができるのだ。 

この袋詰めは当初、値段のついた商品として売られていた。

が、質の良い親ほど価格は高く、金持ちの子供が有利に働いたり、「親をお金で買うのはいかがなものか」などという批難が殺到し、最終的に「いかに欲しいかをプレゼンして決める」という方法が定着した。 

コンビニのレジには、好みの親の袋詰めを持って並ぶ子供たちの列ができた。

そして彼らは、どれだけその親が欲しいのかを熱弁した。

ちなみに、子供は母親と父親、それぞれを自由に選ぶことができるのだが、子供がレジに持っていくのはほとんどが母親だった。どうやら、父親はじゃまだと思っている子供が多いらしい。 

かくいうぼくも、いまこうして母親の袋詰めを手に持って、レジに並んでいる。

次々に順番が進んで行って、ようやく自分の番になった。 

「きみはどんなお母さんがいいの?」 

店員に聞かれ、ぼくは商品を差しだした。

ぼくが選んだのは、前までのお母さんとは違う「温かいお母さん」という商品だった。

これまでのお母さんは、たしかにきれいで優しかった。でも、料理を全然つくってくれず、いつもコンビニ弁当だけだったのだ。

「温かいお母さん」なら、気持ちのこもった温かいご飯をつくってくれるに違いない。そう考えてこれを選んだ。 

ぼくは新しい母親がいかに欲しいか、店員に必死で語った。 

「料理にも、もっとちゃんと愛情を注いでくれる人がいいんです!」  

プレゼンはどんどんヒートアップしていった。 

「もっと温かいご飯が食べたいんです!」 

ぼくは我を忘れて叫びをあげる。 

「だから温かいご飯なんだよ!」 

「もう絶対、温かいご飯!!」 

小一時間ほどプレゼンしたあとだった。

店員がおもむろに口を開いた。 

「きみの気持ちはよく分かったよ。そういうことなら、とびきり温かいのをプレゼントしてあげよう!」 

ぼくは内心で喜びを爆発させた。が、それは束の間のことだった。 

「えっと、温かい、温かい……」 

店員は袋詰めのお母さんを手に持ってブツブツ呟く。 

「温かい、温かい……」 

そして、あっ、と思った瞬間だった。 

呟きながら、店員がレジのうしろの電子レンジのほうに歩いていくのが目に入った。



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