「モデルタバコ」 w/ニュークレープ

禁煙派が勢力を強めている昨今。タバコ業界に、電子タバコにつづく新しいタバコが登場した。その名も「モデルタバコ」である。もともとは正式な名称があったのだが、モデル業界で流行したことが火付けとなって、モデルタバコと呼ばれるようになったのだ。

モデルたちはランウェイを歩くときに、このタバコを口に加える。普通のタバコならひどいマナー違反だが、モデルタバコは八頭身サイズの長身であることに加え、普通のタバコとは違うある特別な機能を持っているので事情が違う。というのが、このタバコは自らの意思で近くの窓や舞台袖、喫煙所などに自在に伸びていくことができるのだ。これにより煙が近くの人の邪魔にならず、ランウェイの空気も汚れないし、高級な衣装に匂いもつかない。モデルにうってつけのタバコだった。

モデルタバコは存在が世間に知れるや、その名前の響きだけで手に取る人が続出した。また、嫌煙派の人たちからも副流煙の心配がないと受け入れられて、世の中で爆発的に広がった。

ある女も、そんなモデルタバコの愛用者のひとりだった。彼女は表向きはモデルの仕事をしていたが、じつは裏ではスパイであり、仕事と称して常々世界中のあらゆる国に忍びこみ、女スパイとして諜報活動を行っていた。

そんな彼女がある日、ボスからこんなことを告げられた。

「次のミッションは、モデルタバコに関するものだ。モデルタバコの製造法は製造元の国の国家機密になっている。おまえはその国に侵入して、製造法を探りだせ」

そうして女スパイは偽造パスポートを使いその国に飛び、さっそく情報を集めはじめた。

困難な日々がつづいたが、彼女はついに重大な秘密を入手した。ある施設の奥の金庫に、モデルタバコの製造法が書かれたデータが保管されているというのだ。

女スパイはさっそく施設に忍びこもうと警備員を落としにかかった。しかし、警備員はいぶかしがるばかりで話がまったく進まなかった。そこで女スパイは色仕掛けを試みた。

「ねぇ、あんまり私を煙たがらないでよ」

そう言い寄ったが、警備員はなかなか落ちない。やむなく彼女は作戦を変え、巧みな話術で理由を作り、警備員を煙に巻いて侵入を果たした。

施設の中は複雑な道がつづいていて、エンエンとセキュリティも突破しなければならなかった。が、彼女はこれまでの経験をもとに、モクモクとそれらを乗り越えた。

そしてついに最後の扉をこじ開けて、金庫の中に入りこんだ。

しかし、次の瞬間のことだった。

入口が厳重にロックされ、女スパイは中に閉じこめられてしまった。

が、彼女は決して動じなかった。前に同じような状況に陥って、危機を脱出したことがあったのである。

こういうときは、モデルタバコの排気口を探す機能を利用するのだ。かつて彼女はその方法で見事に出口を探しだし、無事に逃げおおせることができたのだった。

今回も、同じ手法で脱出をはかろう。

女スパイは隠し持っていたモデルタバコを取り出して、その先端に火をつけた。煙が一筋たちあがり、それはさっそくクネクネ動く。

「さあ、出口を教えてちょうだい」

しかし、モデルタバコは妙な挙動をしはじめた。いつもならすっと目的地へと向かうのに、周囲をうろつくばかりで何だか戸惑っているように見えた。

これにはさすがの女スパイも動揺した。この部屋は完全な密室だとでもいうのだろうか……。

いったん落ち着かなければならない。

そう思い、息を深く吸いこんだ途端のことだった。彼女は思わぬ事態に見舞われた。

モデルタバコが、女スパイの鼻の穴へと勢いよく飛びこんできたのである。

まるで出口を見つけたと言わんばかりに。



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