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記事一覧(21)

「モデルタバコ」 w/ニュークレープ

禁煙派が勢力を強めている昨今。タバコ業界に、電子タバコにつづく新しいタバコが登場した。その名も「モデルタバコ」である。もともとは正式な名称があったのだが、モデル業界で流行したことが火付けとなって、モデルタバコと呼ばれるようになったのだ。モデルたちはランウェイを歩くときに、このタバコを口に加える。普通のタバコならひどいマナー違反だが、モデルタバコは八頭身サイズの長身であることに加え、普通のタバコとは違うある特別な機能を持っているので事情が違う。というのが、このタバコは自らの意思で近くの窓や舞台袖、喫煙所などに自在に伸びていくことができるのだ。これにより煙が近くの人の邪魔にならず、ランウェイの空気も汚れないし、高級な衣装に匂いもつかない。モデルにうってつけのタバコだった。モデルタバコは存在が世間に知れるや、その名前の響きだけで手に取る人が続出した。また、嫌煙派の人たちからも副流煙の心配がないと受け入れられて、世の中で爆発的に広がった。ある女も、そんなモデルタバコの愛用者のひとりだった。彼女は表向きはモデルの仕事をしていたが、じつは裏ではスパイであり、仕事と称して常々世界中のあらゆる国に忍びこみ、女スパイとして諜報活動を行っていた。そんな彼女がある日、ボスからこんなことを告げられた。「次のミッションは、モデルタバコに関するものだ。モデルタバコの製造法は製造元の国の国家機密になっている。おまえはその国に侵入して、製造法を探りだせ」そうして女スパイは偽造パスポートを使いその国に飛び、さっそく情報を集めはじめた。困難な日々がつづいたが、彼女はついに重大な秘密を入手した。ある施設の奥の金庫に、モデルタバコの製造法が書かれたデータが保管されているというのだ。女スパイはさっそく施設に忍びこもうと警備員を落としにかかった。しかし、警備員はいぶかしがるばかりで話がまったく進まなかった。そこで女スパイは色仕掛けを試みた。「ねぇ、あんまり私を煙たがらないでよ」そう言い寄ったが、警備員はなかなか落ちない。やむなく彼女は作戦を変え、巧みな話術で理由を作り、警備員を煙に巻いて侵入を果たした。施設の中は複雑な道がつづいていて、エンエンとセキュリティも突破しなければならなかった。が、彼女はこれまでの経験をもとに、モクモクとそれらを乗り越えた。そしてついに最後の扉をこじ開けて、金庫の中に入りこんだ。しかし、次の瞬間のことだった。入口が厳重にロックされ、女スパイは中に閉じこめられてしまった。が、彼女は決して動じなかった。前に同じような状況に陥って、危機を脱出したことがあったのである。こういうときは、モデルタバコの排気口を探す機能を利用するのだ。かつて彼女はその方法で見事に出口を探しだし、無事に逃げおおせることができたのだった。今回も、同じ手法で脱出をはかろう。女スパイは隠し持っていたモデルタバコを取り出して、その先端に火をつけた。煙が一筋たちあがり、それはさっそくクネクネ動く。「さあ、出口を教えてちょうだい」しかし、モデルタバコは妙な挙動をしはじめた。いつもならすっと目的地へと向かうのに、周囲をうろつくばかりで何だか戸惑っているように見えた。これにはさすがの女スパイも動揺した。この部屋は完全な密室だとでもいうのだろうか……。いったん落ち着かなければならない。そう思い、息を深く吸いこんだ途端のことだった。彼女は思わぬ事態に見舞われた。モデルタバコが、女スパイの鼻の穴へと勢いよく飛びこんできたのである。まるで出口を見つけたと言わんばかりに。

「花の壁」 w/すっきりソング

渋谷には昔から「三大待ち合わせ場所」と呼ばれている場所がある。ひとつはハチ公前、ひとつはモヤイ像前、そしてもうひとつが「花の壁」の前だ。ただ、この花の壁には知る人ぞ知る曰くがある。ここで待ち合わせをするとうまく待ち人に会うことができず、すれ違ってしまう、というものだ。これまでもこの壁の前で待ち合わせた何人ものカップルが引き裂かれてきたし、何組もの芸人さんが解散してきた。有名な霊能力者は、この現象をこう説明したという。ある冬の夜、ひとりの女性が渋谷の壁の前で人を待っていた。その壁には一輪の花のようなシミがあり、人々からは花の壁と呼ばれている有名な待ち合わせ場所だった。その日、女性も壁の前で、彼との記念日を祝うデートの待ち合わせをしていた。ところが、何十分、何時間、待てども待てども彼は来ることはなかった。そして、その日を境に彼からの連絡は途絶えた。人づてに聞いた話によると、彼は別の女性と駆け落ちをしたという。それを聞いた女性は憔悴し、やがて命を落とした。以来、女性の残留思念が花の壁に宿り、壁には元々あった一輪の花の模様に加え、女性の姿をしたシミができた。壁の前で待ち合わせる人は待ち人に会うことができず、悲運をたどるようになったというわけなのだった。ただ、この話には後日談がある。じつは、彼は駆け落ちをして消えてしまったわけではなかったのだ。戦争に行くことが決まり、彼女を悲しませないように最後まで内緒にしたままひとり出征していったのだった。そんな彼は戦争から戻ってきたあと、あるときたまたま渋谷の壁の前を通りかかった。彼はなぜだか壁に強く惹きつけられた。壁を見ているとなんだか昔の恋人のことが懐かしくなり、無性に胸が騒ぐのだった。彼は居ても立っても居られなくなり、近くに見つけた花屋で一輪の花を買った。そしてそれを壁に供え、かつての恋人のことを偲んで去っていった。すると不思議なことに、その日から道行く人々は一輪、また一輪と壁の前に花を供えるようになっていった。供えられた花を見て、ここで何かが起こったのだろうと感じ取り、花屋で新しい花を買い求めては次々に壁の前に供えていった。いまでは壁の前は花で溢れかえっていて、かつてあった模様も埋もれて見えない。人々は何かに導かれるように、せっせと献花をしては去っていく。ある渋谷の花屋の店主は、ひとり内心で笑みを浮かべていた。彼の店はずっと赤字経営で、少し前までは店がつぶれかねない状態だった。けれど、ある日、近所の壁を目にしたときに閃いた。その壁には、一輪の花の模様と、その横に女性が立っているような構図に見えなくもないシミがあったのだ。そこで彼は悲しい物語をでっちあげ、その壁の前に人々が花を供えるように噂を流した。おかげで店は盛り返し、花も飛ぶように売れつづけた。あるとき、花屋の店主は店じまいをしたあとで、いつものように花で彩られた壁の前を通って帰ろうとした。そのとき、彼は信じられない光景を見ることになる。花の壁の前に、ゆらゆらと揺れる二つの影が浮かんでいたのだ。それは兵隊服を着た男性と、若く美しい女性に見えた。そして二人はたくさんの花を両手に持ち、幸せそうな顔をしていた。

「ウミガメ」 w/コトブキツカサ

3組に1組は離婚すると言われる時代に、「ウミガメ」という新しい出会い系のWEBサービスが誕生した。ウミガメの利用者は、口コミで爆発的に広がった。何しろ、カップルの成立率がほかのどのサービスよりも圧倒的に高かったのだ。その背景には、ウミガメの社長率いる社員たちが開発した高度なシステムにあった。ウミガメに登録するとき、人々は自分のプロフィールを入力する。すると、その情報をもとに、異性との超高精度なマッチングが行われるのである。そのおかげで、マッチングされた二人は出会ってすぐに意気投合。必ず付き合うようになり、ほどなくして結婚へと至るというわけだった。利用料が一切かからないということも、サービスの拡散につながった。世の人々からは、経営は大丈夫なのだろうかと心配する声もあがるほどだった。実際にウミガメのスタッフも、しばしばこんなことを社長に言った。「こんなにもアクセス数を稼いでいるんですから、アフィリエイトのひとつくらい設置してはどうでしょう」しかし、社長は一言こう言うのみである。「それは、クールじゃないよ」何やら込み入った事情がある雰囲気で、社員はそれ以上、尋ねることはできなかった。そんな社長がこのサービスを立ち上げるに至った経緯自体も、ほとんどの人には知られていない。じつは彼には、かつて大恋愛の末に結婚した相手がいた。社長はその人を心から愛し、必ず幸せな家庭が築けるはずだと確信していた。そして結婚式で流した彼女の涙を目にしたとき、世の中にはこんなにも美しい涙があるのだということを初めて知った。けれど、新婚生活がはじまると、些細なすれ違いが度重なった。次第に二人の距離は離れていって、やがて彼女の浮気が発覚し、二人は別れることになったのだった。それを機に、彼は自分たちのような不幸なカップルを二度と生みだしてはならないと、ある種の使命感に駆られるようにその方法を模索した。たどりついたのは、男女の完璧なマッチングシステムを完成させるということだった。無料で提供するというポリシーは、このときに確立された。そして寝食も犠牲にして技術開発に明け暮れ生みだされたのが、「ウミガメ」だった。世間に知られていないことは、もうひとつある。「ウミガメ」という名前の由来である。これは社長に近い幹部でさえも教えてもらえず、社長の生涯で、ついに誰にも明かされることはなかったのだった。 *あるところに、一組のカップルがいた。二人は新婚旅行で訪れた海岸で、ウミガメの産卵を目撃した。彼女は、涙を流しながら卵を産むウミガメを見て、何気ない様子で口にした。「あれって、それだけ痛いから泣いてるんだろうねー」そのとき、彼氏は何かを言おうと一瞬口を開きかけた。頭によぎっていたのは、結婚式で目にした彼女の姿だった。しかし結局、彼は言葉を発することなく呑みこんだ。そして彼は、その後、折に触れては思い返すことになるウミガメの涙に目を細めつつ、彼女の隣でただ頷いた。

「49番の河童」w/錦鯉

ある夏の日、お祭りに行くと、くじ屋を見つけた。景品を見ると、50番のところにずっと欲しかったファミコンがあった。ぼくはお父さんに頼み込み、くじを引かせてもらえることになった。けれど、引いた番号は49番で、惜しくもファミコンを逃してしまった。 残念がっていたときだった。くじ屋の店主が裏に引っ込み、「これが49番の景品です」と言って、小さな何かを連れてきた。それは緑色をして頭の上にお皿のようなものが乗っている、見たことのない生き物だった。 「すごい!河童じゃないか!」 と興奮するお父さんの隣で、お母さんは気持ち悪そうな顔をしている。 「こんなのもらってどうするのよ。ヌメヌメしてるだけじゃない」 そんなお母さんをお父さんが説得し、ぼくは河童を飼うことになったのだった。 しかし、いざ飼うとなると、河童の飼い方なんてお父さんも知らなかった。そこで、まずは一緒に食卓を囲んでみて、河童の好きなものを探るところからはじめてみた。すると、イメージどおり河童は最初にきゅうりへ手を伸ばした。 「河童って、ほんとにきゅうりを食べるんだ!!」 お父さんは興奮しっぱなしだ。つづいて河童が口にしたのは、おでんだった。これにはお父さんも意外だったようで、唸り声をあげていた。 河童はどんなところに棲みたいものなのか。それも分からず、まずはぼくの部屋で河童を飼うことになった。いや、ここまでくると、飼うというより、一緒に暮らすことになったと言ったほうが正確だ。 ぼくは河童にいろんな遊びを教えてみた。積み木に、パズルに、ベーゴマに、河童はすぐにコツをつかみ、いい遊び相手になってくれた。話している言葉も最初は「ルッパッパー」という河童語だったのだけれど、教えてあげると、だんだん人の言葉をしゃべるようになっていった。 ところが、ぼくの家で河童を飼っているということが近所に知れ、よからぬ噂をささやかれるようになった。ある家の人は冷蔵庫から魚がなくなったと言って、「河童のせいだ」と文句を言った。ほかの家の人は、子供がケガをしたときに、「縁起が悪い、河童のせいだ」と言って乗りこんできた。近所からは何かと濡れ衣を着せられ、そのたびに河童はひどく落ちこんだ。河童でも濡れているものでダメなものがあるのだと、ぼくはこのときはじめて知った。 そうこうするうちに、家の中での河童の立場も変わってきた。お母さんは「ほら、言ったでしょ?」と言って、どこかに捨ててくるようにと言いだした。あれほどはしゃいでいたお父さんも近所の手前、バツの悪そうな顔をしているばかりだ。 ぼくの気持ちもなんだか移り変わっていって、思わず「お前、全身緑じゃね?」と言ってみたり、「お前の頭、皿だよな」とドーナツを乗せてみたりした。半分は冗談のつもりだったのだけれど、河童はますます傷ついて、ふさぎこむようになっていった。 別れの日は唐突に訪れた。「探さないでください」という書置きをのこし、河童が家を出て行ってしまったのだ。そのときになって、ぼくはようやく自分のしたことの意味を知り、激しい後悔にとらわれた。すぐに家を飛び出して河童の姿を探したけれど、ついに河童を見つけることはできなかった。 時は経ち、ぼくもすっかり大人になって子供もできた。 ある夏の日、ぼくは子供を連れて近所のお祭りに足を運んだ。
「ねぇねぇ、くじ、やってもいい?」 子供にねだられ、くじ屋の前まで行ったときだった。ぼくは思わず大声をあげてしまった。目の前の景品棚の一角、49番のところに、あのときの河童がいたのだ。 これは運命だと、ぼくは子供を跳ねのけて、自分でくじの箱の中に手を突っこんだ。 ――どうか49番が出てきてくれ。あのときの過ちを償うチャンスを、ぼくにくれ―― 願いながら引いたくじを開いた瞬間だった。隣で覗きこんできた子供が叫び声をあげた。 「50番! すごい! お父さん、ニンテンドースイッチが当たったよ!」 喜ぶ我が子を隣にしながら、ぼくは河童と目があった。

「鳥居肩」w/ヤーレンズ

あるところに、神社に強いこだわりを持っている男がいた。暇を見つけると全国津々浦々の神社に足を運び、熱心にお参りをしていた。 しかしあるとき、男が神社で拝んでいると、どこからか声が聞こえてきた。 「あなたの熱意は異常です。ちょっと正直、私も引いています。なので、あなたがもう神社に来なくなるように……おっと、あなたがわざわざ通わなくてもいいように、あなたの肩に神社を授けることにします」 すると、男の肩が眩い光に包まれた。次の瞬間、その右肩には小さな鳥居が、そして左肩にはその他一式ができていた。 この日から、男は神社と共に暮らしはじめた。 翌日、彼の友人がやってきて、この神社をひどくおもしろがった。友人は、彼女が欲しいと五円玉を投げ込んで柏手を打った。するとだ。次の日、なんと友人に念願の彼女ができたのだ。しかも、いまでいう新垣結衣的なとびきり美人の。 この噂は口コミで一気に広がりを見せた。さらに、いまでいうTwitter的なものを介し、いまでいうジャスティンビーバー的な者にも拡散されて、連日男のもとには参拝に来る人が後を絶たなくなった。人々は賽銭箱にどんどんお金を投げ込んでくれるので、男はお金に困ることはなくなった。ちなみに、それを見た隣の意地悪じいさんが真似をして、肩にお寺一式をつくって町を歩き回った。結果、大量のお賽銭が集まったのだが、その重さに耐えられず命を落としたりもした。 さて、お金に困らなくなった男だったが、別の深刻な悩みを抱えるに至っていた。ひどい肩凝りのこともあったけれど、問題は神社の向きだった。鳥居をはじめ、すべてが後ろ向きに建てられていたので、他人は参拝できても、自分で自分の神社に参拝することができなかったのである。 その年の正月、男は虚無感に襲われていた。年に一度、最も人々が自分をちやほやしてくれる日が正月だ。けれど、自分だけは参拝できないのだ。後ろにできる行列に、男の虚しさは募るばかりだった。 「なるほど、一方的に参拝に来られる神様の気持ちは、こんな感じだったのか。このままでは、私はただの足の生えた神社じゃないか……」 そのときだった。正面からこちらへ近づいてくる人影が見えた。それは女性で、男は、また新しい参拝客が来たのだろうと思い、こう伝えた。 「参道なら、後ろですよ」 しかし、女性は何も言わず立ち尽くしていた。最近は外国人も多いので、言葉が通じないだけかと思った矢先、彼女の肩に何かが乗っかっていることに気がついた。目を凝らすと、それはなんと男のものとは色違いの鳥居だった。 女性は突然、身体を後ろに向けて言った。 「私に参拝していいよ」 こうしてここに、互いに互いを参拝しあう男女が誕生したわけである。 二人がそれぞれ参拝を終えた直後だった。
二つの鳥居が光り輝き、二人のあいだに見るからに純度の高い、霊験あらたかそうな小さな鳥居が生まれ落ちた。 その後、二人がそれを大切に育てはじめたのは言うまでもない。 年月をかけ、鳥居はすくすく大きくなった。そして鳥居は二人の肩にあるもの以上に話題となり、参拝客もひっきりなしに訪れて、それはそれは有名な神社へと成長していくことになる。
これがのちの伊勢神宮である。

※この作品はフィクションです。 

「snow害獣駆逐法」w/ウエストランド

20XX年、一部の男性陣からの猛烈なクレームによって、「snow害獣駆除法」なる法律が制定された。これは、写メを撮るときにアプリ「snow」でクマやイヌ、ウサギなどのかわいい動物の姿に写り、本来の顔から過剰に盛ってかわいさをアピールしてくるくせに、実際はぶさいくな男は選ばない偉そうな害獣女子たちを駆逐するための法律だ。 このお法律の定める免許を取得すると、特殊な猟銃が与えられる。銃にsnowで盛られた写メをインプットすると、銃がターゲットを認識。相手がどこにいようとも、その女子のほうへ弾丸が向かっていくのだ。撃たれた女子はケガをするわけではない。代わりに生涯、写メで自身を加工することができなくなる。弾丸は回避不可の追尾式になっているため、一度恨みを買った女子は逃れることができないのである。 あるとき、おれは合コンでひとりの女子から見下され、とても不愉快な思いをした。そんな折に制定されたのが、この「snow害獣駆逐法」だった。これはいい。そう思い、復讐のためにおれはさっそく講習に参加し、猟銃を扱える免許を取得した。 自宅に戻るとインスタを検索して、例の女子のアカウントを発見した。そこに並んでいたのは思った通り、snowで盛られた写真のオンパレード。おれはクマにデコられた一枚をチョイスして、猟銃にセットした。スコープから覗いてみると、不思議とあの女子が見える。照準を合わせてロックオン。迷うことなく引き金をひいた。 その日から、あの女子のインスタからはデコられた写真が一切なくなった。それどころか、写真がまったく上がらなくなった。前はナイトプールなどの写真がしょっちゅうアップされていたのに、おしゃれスイーツの写真さえも上がらない。 おれは、ざまあみろと、胸のすく思いがした。きっといくら写メを撮っても盛ることができないので、アップする写真がひとつもないのだろう。もしかすると、落ち込んで写メを撮る気持ちにさえもならないのかもしれない。作戦は大成功だと、緩む頬をおさえられず、ひとり部屋で笑い声をあげた。 ところが、しばらくたって、あの合コンに一緒に行った男友達からこんな話を聞いた。 「あの子、いますっごい優しいイケメンと付き合ってるらしいよ」 おれは耳を疑った。盛って自分をよく見せることなどできないはずなのに、どうやって男にアピールしたというのだろうか。
友達はつづける。 「急に写メが盛れなくなって困ってたらしいんだけど、そんな飾らない表情がよかったみたいで。男のほうから告白してきたんだとか」 おれは怒りがこみあげた。なんだったんだ、あの法律は! くだんの法律は、ほどなくして廃止されることが発表された。一部の男性陣から猛烈なクレームが殺到したのだ。 「せっかく盛れなくしてやったのに、みんな幸せになってるじゃないか! 不幸なのはおれたちだけだ!」 結局のところ、そんな銃を持つようなやつらは何をやろうと相手にされないのだった。 

「べちょべちょランド」w/マツモトクラブ

ぼくは家族で某テレビ局の夏休みイベントに訪れた。いろいろなアトラクションに目移りする中、不意に気になる看板が目に入った。そこには「べちょべちょランド」と書かれていた。 「ここに入りたい!」 そう言うと、お母さんが言った。 「絶対ダメ! 汚れるから!」 けれど、その隣でお父さんが口を開いた。 「お父さんは行ってみたいなぁ……」 どうやら、お父さんは変なことを想像しているようだったけれど、ぼくはそれには触れず、 「ほら、お父さんもいいって言ってるじゃん! お父さんと行ってくるから、お母さんは外で待っててよ。お母さんは出入り禁止ねー」 そう一方的に告げ、お父さんと二人で中に入った。 と、入口をくぐった矢先だった。後ろから急に猛烈な勢いで風が吹いてきて、思わずぼくは前に倒れこんだ。そして身体に、べちょっと何かがくっついた。隣ではお父さんも同じように倒れていて、身体についたべちょべちょを見て首を傾げている。すると、係員の人がきてこんなことを教えてくれた。 「このべちょべちょランドは、このように床や壁の全面がべちょべちょに覆われているんです。このべちょべちょはNASAが開発したものでしてね」 「NASA!?」 「ええ、ほら、無重力装置ってものがあるでしょう? あの装置が万が一壊れたとき床に叩きつけられても大丈夫なように、衝撃吸収性を高めたこのべちょべちょが開発されたんです。実際に、いま転んだのに痛みを感じていないでしょう?」 たしかに派手に転んだわりに、まったく痛いところはなかった。 「ぜひいろいろと遊んでみてください」 ぼくはワクワクしたけれど、お父さんはその説明に何かの期待を裏切られたようで、呆然と立ち尽くしていた。それをよそに、ぼくはもう一度、同じようにわざと転んでみた。やっぱり、まったく痛くない。このべちょべちょは、本当に衝撃を吸収してくれているらしかった。 それからぼくはヘッドスライディングをしてみたり、バク中に挑戦してみたりした。どこを打っても痛くなく、普段できないような動きを楽しんだ。ただ、お父さんのほうを見るとショックを引きずっているようで、まだ立ち尽くしていた。心の衝撃はNASAでも吸収できないのかな。 周囲を見渡すと、ほかの子たちはべちょべちょを丸めてぶつけあって遊んでいたり、スライダーを滑っていたり、雪だるまみたいなものをつくっていたりして、はしゃいでいた。それに加わり、ぼくもべちょべちょの世界を満喫した。 「……そろそろ行こっか」 その弱々しいお父さんの声で、ぼくは我に返った。そして自分の身体を見回した。服はすっかりべちょべちょになっていて、こんなに汚したらお母さんに怒られると青ざめた。 けれど次の瞬間、ひらめいた。もしも怒ったお母さんに叩かれたって大丈夫じゃないか! なぜなら、ぼくの全身には衝撃を吸収してくれるNASAのべちょべちょがついてるんだから! お父さんのあとにつづいて外に出ると、案の定、お母さんはかんかんだった。 「こんなに待たせて! しかも、あなた、べちょべちょじゃない!」 カッとなったお母さんが手を挙げた。 ――さあ来い! そう思った直後だった。ぼくの頭に予想外の強い衝撃が訪れた。わけが分からず、一瞬遅れて自分の頭を触ってみた。すると、なんと叩かれた後頭部にだけ、べちょべちょがついていなかったのだ。 お父さんはどこか寂しそうに、お母さんに言った。 「……今日は一緒に寝よ」 ぼくは作戦が失敗したショック、お父さんは何かのショックを抱えたまま、ぼくたちはイベント会場をあとにした。

「性格整形外科」w/ ねじ

彼女の実家に初めて遊びに行ったときだった。緊張しながらお父さんと話すうちに、お父さんの趣味を知って引いてしまった。なぜなら、お父さんがぼくの大嫌いなサウナ好きの人だったからだ。 それでもお父さんとお近づきになりたいと思い、家に帰って頭を悩ませた。と、ぼくはアッとひらめいた。友達にサウナ好きのやつがいたことを思いだしたのだ。 さっそく電話をかけて、彼に事情を伝えて尋ねてみた。 「どうやったらサウナ好きになれるかな…?」 すると彼はこんなことを口にした。 「えっ、そんなの整形すりゃいいじゃんか」 戸惑うぼくに彼はつづける。 「知らないの?   いまの時代、性格なんて好きに整形できるんだよ。  性格整形外科っていうんだけどね、そこに行けば、おまえの望むサウナ好きの性格が簡単に手に入るよ。  ちなみに、おれもそこで整形してもらってさ。  ほら、おれ前は固いあずきバーが好きだったじゃん?   でも、いまじゃカスタードしか受け付けない。  それも整形の効果なんだよ」 聞きたいことは山ほどあったが、その話を耳にして、ぼくは居ても立ってもいられなくなった。そして、目白にあるその店にさっそく足を運んでみた。 友達から聞いていた通り、店は出口と入口が別になっている構造で、初めて訪れても安心して入れるようになっていた。先生も優しそうな初老の男性で緊張することもなく、保険こそきかなかったけれど、ローンを組んで、ぼくは無事にサウナ好きの性格を手に入れることができたのだった。 それから数週間してのこと。ぼくは「別に無理しなくていいんだよ」という彼女の気遣いを押し切って、再び彼女の実家を訪れた。 お父さんが出てきたところを見計らって、ぼくはすぐさま切りだした。自分がサウナにかける思い。サウナのどこが好きなのか。 しかし、ひとしきりしゃべり終わったあと、ぼくはなんだか様子がおかしいことに気がついた。隣を見ると彼女は顔を青くしていて、その視線の先には眉根を寄せたお父さんの姿があったのだ。
「どうかしましたか……?」 おそるおそる尋ねると、彼女がそっと耳元でささやいた。 「お父さん最近、性格整形外科に行ってきたみたいなの…!」 そのとき、お父さんは声を荒げて口にした。 「サウナなんて入るもんじゃない!!」